一店舗目の売上が安定すると、二店舗目の話が具体的になります。よい物件が見つかり、常連客からも別の地域へ出してほしいと言われる。資金の見通しも立ってくると、次に進む時期だと感じるでしょう。ところが、契約の前に一つ確認したいことがあります。新店舗が動き始めたら、社長はどこで何をするのでしょうか。

現在の店舗が順調なのは、立地や商品だけでなく、社長が毎日細かな判断をしているからかもしれません。その仕事を残したまま店舗数だけ増やすと、二つの現場から連絡が来る状態になります。二店舗目の計画は、新しい物件の採算と、社長が不在でも進む仕事を合わせて考える必要があります。

今の店で、社長だけが決めていることを拾う

仕入れの調整、欠勤した社員の代わり、顧客からの要望、値引き、設備の不具合。日常の仕事に見えても、そのたびに社長へ確認しているなら、店舗を増やした後も同じ相談が発生します。「店長へ任せる予定」という一言では、何を渡すのかが分かりません。

まず一週間ほど、社長へ来た連絡を内容別に残してみます。回数を数えるだけでなく、何の情報が足りずに相談になったか、どの程度の金額や影響があったかを記録します。社長がその場で処理している仕事ほど、一覧にすると意外な量が見える場合があります。

その中で、基準を共有すれば任せられる判断と、経営上の判断として残すものを分けます。すべてを現場へ渡す必要はありません。ただ、通常の仕入れまで毎回承認が必要な状態と、大きな契約だけ相談する状態では、二店舗目に使える時間が違います。

店長を決めるだけでは、判断の仕組みはできない

長く働いている社員を店長に任命すれば、店舗を任せられると考えがちです。しかし、優れた接客や作業の経験と、在庫、人員、売上をまとめて判断する仕事は違います。新しい役割を担うための情報と、相談する条件を用意する必要があります。

たとえば、現場で値引きを判断するなら、許容する範囲と、粗利や在庫との関係を共有します。欠勤への対応なら、応援を求める順番や、営業時間を調整する必要がある場合の連絡方法を決めます。細かなマニュアルを増やすより、よく起こる判断から合わせる方が使いやすくなります。

任せた後に社長が毎回結論を変えると、店長は判断しなくなります。判断の理由が合っていれば、細かな好みの違いは分けて扱うことも必要です。任せる範囲を決めることと、どんな結果でも現場だけの責任にすることを同じにしないようにします。

一店舗目で、社長がいない日を試してみる

二店舗目が開くまで待たず、現在の店舗で社長が現場に入らない日を設けてみる方法があります。休暇を取ることが目的というより、誰がどの判断に困るかを確認するためです。事前に通常の対応を共有し、緊急時に連絡する条件も決めます。

当日は、社長が細かな状況を見て先回りしすぎないことも大切です。ただし、顧客や安全に影響する問題を放置する試験ではありません。必要な連絡は受け、終わった後に、何が判断できず、どの情報が足りなかったかを振り返ります。

一日うまく回っただけで、長期間任せられるとは限りません。繁忙日、仕入れ日、担当者が少ない日など、条件を変えて確認します。現場が無理をして成立していないかも聞き、通常の運営として続けられる形へ調整していきます。

新店舗には、開店前後だけの仕事も発生する

新しい店舗では、採用、研修、設備の確認、仕入れ先との調整、顧客への案内など、通常営業とは違う仕事がまとまって発生します。一店舗目が順調だからといって、同じ日常業務を一つ増やすだけではありません。開店準備と、営業開始後の安定化を分けて計画します。

社長が新店舗へ入る期間には、既存店の誰が責任者になるかを決めます。反対に、既存店の店長を新店舗へ移すなら、元の店舗の体制も変わります。新店舗の採用計画だけでなく、二店舗全体で誰がどこにいるかを確認する必要があります。

準備費用にも、現場の教育や応援に使う時間を含めて考えます。外部へ支払う内装費や設備費は見えやすい一方、既存社員が準備に関わる負担は抜けがちです。本業の営業力や接客の質を落とさずに進められるかを、予定の段階で確かめます。

二店舗の報告は、同じ条件で比べられるようにする

店舗ごとに売上の記録や在庫の数え方が違うと、社長は状況を聞き直す必要があります。二店舗目を出す前に、売上、粗利、人員、在庫など、経営判断に使う基本情報をそろえます。現場が入力できないほど細かくする必要はありません。

同じ数字を見ても、立地や営業時間、客層が違えば、意味は変わります。単純に売上の多い店をよい店とせず、費用や運営条件も合わせて確認します。新店舗の立ち上がりと、既存店の通常期をそのまま比較しないことも大切です。

報告の目的は、社長が細部を管理することだけではありません。店長が自分の店の変化を知り、次の対応を提案できることも重要です。数字を提出して終わりにせず、何を変えるかを話せる時間を作ります。

二店舗が同時に忙しくなったときの優先順位を決める

普段は応援で回せる計画でも、繁忙期が重なれば人を動かせないことがあります。体調不良、設備の不具合、大口の予約などが同時に起きる場合も考えます。すべての例外を予測するのではなく、応援で対応できない場合の判断方法を決めておきます。

現場の責任者が相談する窓口を一本化する、追加費用の承認条件を決める、営業内容を調整する場合の連絡順をそろえるなどです。どちらの店を優先するかを社長がその都度気分で決めるのではなく、顧客への影響や安全、継続する費用を基準に考えます。

二店舗目の計画が成立するために、毎回社長が長時間働く必要があるなら、その前提を認めたうえで判断します。「軌道に乗れば楽になる」という見通しだけでは、いつまでどの負担を引き受けるかが分かりません。運営が安定したと判断する条件も決めたいところです。

店舗を増やす目的を、売上以外の言葉でも説明する

売上を増やしたいのか、地域を広げたいのか、店長候補の活躍の場を作りたいのか。目的によって、二店舗目に求める条件は変わります。社長が現場から離れたいという目的なら、店舗数を増やすことだけでは解決しないかもしれません。

いまの店舗の採算と体制を整える案、二店舗目へ進む案、店舗以外の事業を調べる案を、同じ目的に照らして比較します。店舗を増やさないことを消極的な選択と決めつける必要はありません。それぞれの運営負担と、将来に何を残したいかを確認します。

別の収益源を考える場合も、店舗なら管理が大変でWEBなら簡単、といった比較にはしない方がよいでしょう。どの事業にも運営と判断が必要です。自分が関わる仕事と、任せられる仕事を分けて比べます。

物件の契約前に、社長の予定表を二つの店で埋めてみる

最後に、開店後の一週間を仮に予定表へ置いてみてください。既存店の確認、新店舗の打ち合わせ、採用、経理、取引先との連絡。移動の時間も入れます。予定が重なる箇所には、誰へ何を任せる必要があるかが表れます。

予定が埋まらないことより、埋めるために無理な前提を置いていないかを確認するのが目的です。店長が決まるはず、すぐ採用できるはず、既存店は変わらず回るはず。その条件を一つずつ確かめてから、物件と収支の判断へ進みます。

二店舗目は、新しい店を作るだけでなく、二つの現場を運営する会社へ変わることです。社長がどこにいるかを先に考えることで、出店後に必要な体制と、自分が引き受ける役割を具体的にできます。

店舗間の移動費や移動時間も、予定表へ入れてください。現場の滞在時間だけを計算すると、急な呼び出しが重なったときに無理が生じます。離れた場所で起こる問題に、現場で対応できる範囲と、社長が向かう必要がある範囲を分けることも、二店舗の運営を考える材料になります。

あわせて確認できる公的情報:中小企業庁「中小企業白書」